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Pとこの一冊 第2回 真人間P「箱男/安部公房」

これを御覧の皆に、質問がある。

過去に、段ボール箱、またはそれに準ずる「箱」に入ってみたり被ったりした経験はあるだろうか。
また、箱に入ったまま、一日を過ごしたことはあるだろうか。

今回は「箱」を被ったまま生きる、匿名性の塊と言っても過言ではない存在である「箱男」について語らせてもらう。
これを読んだ方が、この作品に少しでも興味を持っていただけたのならこれに勝る喜びはない。
前置きはこのくらいにして、簡単な説明からしていこうと思う。

No2 真人間P用


「箱男」とは、安部公房氏の作品の一つだ。
「箱男」の世界では、“箱男”という存在が認知されている。いや、正確には認知されてはいない。
この世界の人間は箱を被ることで、世俗から切り離された“箱男”という匿名的存在になることができる。“箱男”になる事で、名前も職もその他一切のしがらみを全て捨て去ることができるのだ。
彼らを街で見かける事があるかもしれない。しかし、世間は彼らを認知しない。認知する必要がないからだ。
箱を被り、覗き穴を空け、歩く。誰も彼を認知しない。世間の人達は覗かれてもなんとも思わない。だが“箱男”は覗く。段ボール箱1枚を隔てるだけで、一方的に覗く側に立てるのだ。
彼らと安部公房にとって、“帰属”を最大限まで突き詰めた結果が存在証明を捨て、不在証明を手に入れることだったのだ。

『人は自由な参加の機会を求め、永遠の不在証明を夢みるのだ。そこで、ダンボールの箱にもぐり込む者が現われたりする。』


これで“箱男”の存在について理解して頂けたと思う。
「箱男」の世界観についても。

この「箱男」という作品は、安部公房の“冒険”が見られる。その一つに、“読者にとっての小説への参加”が挙げられるだろう。
「箱男」は、バラバラに記憶・記録されたものを勝手に、何度でも積み変えてもらうような設計になっているのだ。
私が初めてこの作品を読んだ時、すぐに気付いた。ただでさえ作品に引き込まれるような工夫が多数なされているというのに、安部公房は「小説への引き込み」を「小説への巻き込み」へと昇華させたのだ。
私には、安部公房が恐ろしく思えてならない。間違いなく、天才である。

「小説への巻き込み」を匂わせる要素の一つに、情報の視覚化―写真があることについて触れておかねばなるまい。
「箱男」では、主人公が自ら写真を撮るシーンがある。一度目の写真挿入の後にそのシーンはあるのだが、「《表紙裏に添付された証拠写真についての二、三の補足》」と銘打たれたその説明文を読む限りでは、どうも挿入される写真と条件が合わないのだ。
つまりこの挿入された写真は、主人公本人が撮ったものかどうかが判断できないような演出の下で、『意図的に』使用されていると考えることが出来る。
そしてその写真の下に書かれた、詩のような文章。物語の進行には然程関係はないのだが、何か意味を見出そうとするような雰囲気があるのだ。
こういった詩的で思わせ振りな表現が、写真にも並列して行えるということを意識させる働きは無いとは言えない。

つまり、写真自体が文章から独立した、ある種の情報を提示するメディアとして働いているのである。
主人公本人が撮った写真かどうかは明確でないが、客観的立場にある“写真”が介在することによって、物語の現実味は更に増す。
「誰が撮ったか」の前に、この写真が物語世界の現実を写しているものであると読者は前提的に容認してしまう。
ここにも、より身近で直接的になった日常の視覚メディアの特性が巧みに利用されていることが分かる。

『“見る”ことには愛があるが、“見られる”ことには憎悪がある。』


私はこの作品が大好きだ。物語に引き込まれることは数あれど、巻き込まれたのは後にも先にもこれだけだ。「箱男」は、私という読者を、小説の参加者へと引き上げてくれたのだ。内容もさることながら、その技法に私はただただ舌を巻くことしかできない。
ただの「箱」の広がりを知るには、この作品におまかせあれ。是非とも書店で手に取ってもらいたい。
私の拙文にお付き合い頂き、本当に嬉しく思う。それでは、また機会があれば文章の上でお会いしよう。その時は「箱男」と安部公房について語り合うことができたら、と思うばかりだ。

『じっさい箱というやつは、見掛けはまったく単純なただの直方体にすぎないが、いったん内側から眺めると、百の知恵の輪をつなぎ合わせたような迷路なのだ。もがけば、もがくほど、箱は体から生え出たもう一枚の外皮のように、その迷路に新しい節をつくって、ますます中の仕組みをもつれさせてしまう。』

new_No2 真人間P用2

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Author:真人間P

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