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Pとこの一冊 第1回 さそ「ザ・サード/星野 亮」

 世界を描く――小説『ザ・サード』シリーズ 作・星野亮

No1 さそ用


 真人間Pから寄稿のお話をいただいた。
 企画「Pとこの一冊」にて、大切にしている一冊(あるいはシリーズ)について語ってみないかというのである。二つ返事でOKしたが、実はやや後悔もした。後悔しながらこれを書いている。
 というのは、果たして今の自分を「P」と見なして良いものかどうかわからなかったからだ。
 もう動画も小説も手がけていないし、このところのアイマスの展開にはあまり良い感情を持っていない。愚痴でブログやツイッターを汚してしまうことも多く、そんなふうでプロデューサーを名乗れるか、と。
 悩ましいところだが、正直なところ私は愛読書について語る場を与えられたことが嬉しい。浮かれていると言ってもいい。なので、この稿を実際に使うかどうかは企画側にお任せするとして、私は私の座右の書について思いの丈を綴らせて頂こうと思う。
 前置きが長くなりました。少々お付き合い下さい。

『ザ・サード』というライトノベルをご存知だろうか。
 最近某所を賑わせている『進撃の巨人』のこともあって、野球の三塁手が主人公のお話と思われるかもしれない。あいにくそうではない。……いやこのネタ、むかし掲載誌であったものだから。
 これは遥かな未来、『大戦』と呼ばれる戦争を経て荒廃しきった地球の物語で、ザ・サードとはその地球に出現したある特別な人類種の呼び名である。彼らは額に邪眼のような『第三の目』を持っている。だからthe third。

 さてこのお話、主人公は『なんでも屋』を営む17歳の女の子である。名前を火乃香(ほのか)というが、こちらもあいにく、今の中で輝きを待っていたスクールアイドルユニットのセンターではない。正直あちらの名前を聞いたとき、このことで少なからず反応した。それは余談。
 火乃香の生きる時代の地球では、先の大戦のために陸地の大半が砂漠化し、砂中には半端なハジキなどものともしない凶悪生物がひしめいている。砂漠を隔てた居住エリア間の移動は徒歩では絶対に不可能で、旅をする際はなんでも屋や傭兵の持つ戦車の力に頼るほかなく、それでも旅人が戻らない例は後を絶たない。
 また、人類は戦後に現れた超人種ザ・サードに支配されており、飛行機をはじめとした一定の科学技術の研究・開発ならびに所持を禁じられている――
 と、こう書くとそれこそ『進撃の巨人』に近い人類クライマックス世界なのだが、作中の空気はとても明るく、開放的で活気に満ちている。
 居住エリアをぶらつけば、露天商がサイボーグの傭兵とロケットランチャーの値段交渉で喧々諤々の口論を繰り広げ、その後ろを子どもたちが笑いながら駆けていく。病院では病院嫌いのアンドロイドが婦長さんに言い負かされ、裏道に入れば技術屋たちが御禁制の超兵器開発に余念がない。各居住エリアの自警団や行政長はザ・サード派出の査察軍に常に睨みを利かせているし、砂漠の旅を終えた火乃香らなんでも屋は、旅の中で見た星空や不思議な生き物たちの話を土産に友人知人の家をおとなう。
 この世界の人々は、とことん力強いのだ。一度は滅亡の危機に瀕し、水の星を砂の海に変えてしまったのに、その砂の海には命の力が満ち溢れている。「それでも生きる」人々がそこにはいる。
 人間だけではない。
 砂漠に生きる巨大なアリやクモ、龍の名前で呼ばれる謎の種や、もっとわけのわからない多種多様な生き物たちも、それぞれに地球に息づいている。火乃香はこの物語の中で幾度となく彼らと触れあい、ときに命のやり取りをするが、その中に一匹として異常・異質のモンスターは存在しない。火乃香自身を含めて皆が自分の歴史を持ち、正当な理由をもって生き、殺し、死んでゆく。それは言うなれば食物連鎖にも似た、残酷にして正常な生命のサイクルである。
 冒頭、私はこの物語を「荒廃しきった地球の物語」と述べたが、それはこのことを意味している。主人公の火乃香を通じて、彼女の生きる地球の鼓動が、砂漠の息遣いが、ぐんぐんと伝わって来るのである。そしてそのエネルギーが、読み手の――私の胸に届いて、確かな力をくれるのだ。
 初めてこの世界と出会ったのは火乃香と変わらない齢のころだったが、与えられた力と衝撃の大きさにしばし途方に暮れたものだった。
 腹の中に地球が誕生したような、自分の中に世界が新しく創造されたような、文字通りビッグバン級のインパクトとでも言えば良いのか。あれほどのものを感じたのは、その少し前の『スレイヤーズ』と、後のアイマスだけである。スレイヤーズ、ザ・サード、アイドルマスター。我が人生を狂わせ、もとい、かたち作りし三柱だ。

 ――と、いまいち華の無い文章をここまで連ねてしまったが、ご理解頂きたい。正直なところ私もあのお話を自分の中で明文化しきれておらず、ざっくり「好きだからオススメ!」くらいにしか言えないのである。
「火乃香はかつてドラゴンマガジンの企画『彼女にしたいヒロインランキング』で千鳥かなめや御剣涼子を押さえて一位に輝いたことが……」などと古い栄光を語ってもしかたないし、またその火乃香の人間性に触れるにあたっても、私と同じ新鮮な驚きをもってぞっこん惚れ込んでもらいたいため、ここで具体的にその魅力について語るのははばかられる。
 私がこんな言い方をするとアレだが、出会いから十三年余を経、菊地真を知った今なお、彼女は私の中のひとつの頂に君臨し続ける『太陽』にして『憧れ』である。

 憧れといえば、私はザ・サードが持つ小説としての魅力にも強い憧れを抱いている。拙作が二次創作のくせにやたら『世界観』を描こうとするのは間違いなくこのお話の影響で、自分の中の765プロ、自分の中のアイドルマスターを表現してはじめて良しとする我が習性は、命息づく地球を描いたザ・サードの物語に惹かれるがゆえのものである――と、今気づいた。
 真担当を僭称しながら、ついに真の物語をさほど描かなかった理由もそこにある。私が描きたかったのは「真がいる風景」であり、真自身の物語ではなかった。物語に表すまでもなく、私の中で菊地真とは既にほぼ確立された存在だったのだ。もっともニコマス活動の後半はモチベーションのありかが全く変わってしまい、そこから真のお話が増えはじめたのは皮肉だったが……。

 ともあれ。
 さそPのルーツ、という触れ込みではいかにもマイナスの印象にしかなるまいが、シリーズ『ザ・サード』、またその初巻『蒼い瞳の刀使い』、頭の隅にでも留め置かれ、もし縁あればご一読の上、かの世界が宿す『力』に触れて頂ければ、これに勝る喜びはない。
 その『力』を象徴する一節を紹介して、本稿の括りに代えようと思う。

「すっげー。生きていく場所だって、生きていく方法だって、いくらでもあるんだ。どんなやつがいたってかまわないんだ。だって、だってさ――
 こんっっっなに広いんだよ? ははっ。なんだ、そういうことじゃん」
 火乃香は嬉しかった。ハムシーン・フィッシュが、彼女たちの過去も現在も未来も、いま置かれた立場も、胸に秘めた情動も、あっけらかんと無視してくれた態度が、どうしようもなく嬉しかった。
 ――ザ・サードⅦ『死すべき神々の荒野(上)』より。


new_No1 さそ用2



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Author:さそ

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