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Pとこの一冊 第3回 薄荷風味P「クッキングパパ/うえやま とち」

寄稿にあたって、僕が大切にする一冊(1シリーズ)ってどれだろう、と考えた。
最初のお二方が活字だったので、僕も活字ものでちょっとカッコよくいきたいな、それなら「燃えよ剣」とか「岳物語」あたりは書けそうだな、とか、でも大切にしている一冊とはいえないからせめて「パパ聞き」とか「護くん」とかじゃないだろうか、とか。

ところが。いざ書こうとして筆を執ると、内容を思い出せないのだ。
いや、楽しかったし、心に残るものがあるシリーズだったし、生き様のカッコよさとか芯の強さとかあったじゃないか、と文章を書き起こしてみたのだが、やはり駄目。
記憶を無理やり引き起こして「大切な」一冊たりえるだろうか。否、ただの虚栄ででっちあげることだけはどの本も教えてくれなかったじゃないか、と気づく。


だから、僕はカッコつけるのをやめることにした。

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僕が「大切に」する一冊(……というには多すぎる)シリーズは「クッキングパパ」だ。
現刊行冊数にして122巻。ウチには全巻ほぼ初版で揃っている。第一回の掲載が1985年で、当時、僕は生まれてすらいなかった。

物心ついたときには、その赤い背表紙がずらりと本棚に一列揃っていた。一回目の料理だった「イタリアン鍋」や初期に登場する「いそぎんちゃん」なんかを食べて育った。

僕が荒岩家の息子、まことを追い抜いたのは中学生のときだ。本棚の赤い背表紙はいつの間にか2列になっていた。
その頃になって、僕もクッキングパパを読むようになった。

まことが中学を卒業する頃、僕も高校を卒業した。大学に入って、アルバイトしながら、漫画以外のレシピも読むようになった。

就職して一人暮らしして、失敗して、地元でもう一度就職したときにはもうまことが大学生になっていた。本棚は5列ほど、赤い背表紙で埋まっていて、変わらず荒岩家は荒岩家だった。
そして今、僕はレシピを見ながらその味を想像するまでにいたった。

つまり、僕の人生は、傍らに荒岩家があったと言っても過言ではなかった。

さて、どれだけ大切な本かということを語った上で、この本の魅力について改めて考えてみた。

まずひとつが、主要な登場人物がコレだけの年数を経て、まだ増え続けることだ。家族の誕生だけでなく、少しずつ交友関係が増えて、その輪を大きくしていく。かといって新参の読者が入りづらいわけではない。

ふたつめが、バトルものではないという点。料理というと、同じく長期連載の「美味しんぼ」や「ミスター味っ子」「華麗なる食卓」、最近始まった「食戟のソーマ」、あるいは実写の「料理の鉄人」など、バトルをすることで盛り上げる風潮があることは否めない。読者がわくわくする展開を望むのなら、料理という地味なジャンル故、そうせざるを得ないということだ。
それをしなかった料理漫画は「味いちもんめ」と「クッキングパパ」くらいのものじゃないだろうか。
料理は人を笑顔にする、それを体現する漫画、と言える。

もうひとつ。緩やかではあるが確実に経年していることも忘れてはいけない。息子や娘が成長し、主任だった彼が係長、課長と昇進する。普通長寿漫画といえば、サザエさん時空に囚われていつしか成長しなくなるものだが、この漫画にそれは来ない。たぶん、きっとこれからも。


ただのレシピブックという読み方もあるだろうが、もし目を向けられるのならば、一度通して読んでみることをお勧めしたい。
そこに荒岩家は息づいていて、成長を続けていて、彼らを取り巻く喜怒哀楽がきっと心を豊かにしてくれるだろう。僕がそうだったように。

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Author:薄荷風味P

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Pとこの一冊 第2回 真人間P「箱男/安部公房」

これを御覧の皆に、質問がある。

過去に、段ボール箱、またはそれに準ずる「箱」に入ってみたり被ったりした経験はあるだろうか。
また、箱に入ったまま、一日を過ごしたことはあるだろうか。

今回は「箱」を被ったまま生きる、匿名性の塊と言っても過言ではない存在である「箱男」について語らせてもらう。
これを読んだ方が、この作品に少しでも興味を持っていただけたのならこれに勝る喜びはない。
前置きはこのくらいにして、簡単な説明からしていこうと思う。

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「箱男」とは、安部公房氏の作品の一つだ。
「箱男」の世界では、“箱男”という存在が認知されている。いや、正確には認知されてはいない。
この世界の人間は箱を被ることで、世俗から切り離された“箱男”という匿名的存在になることができる。“箱男”になる事で、名前も職もその他一切のしがらみを全て捨て去ることができるのだ。
彼らを街で見かける事があるかもしれない。しかし、世間は彼らを認知しない。認知する必要がないからだ。
箱を被り、覗き穴を空け、歩く。誰も彼を認知しない。世間の人達は覗かれてもなんとも思わない。だが“箱男”は覗く。段ボール箱1枚を隔てるだけで、一方的に覗く側に立てるのだ。
彼らと安部公房にとって、“帰属”を最大限まで突き詰めた結果が存在証明を捨て、不在証明を手に入れることだったのだ。

『人は自由な参加の機会を求め、永遠の不在証明を夢みるのだ。そこで、ダンボールの箱にもぐり込む者が現われたりする。』


これで“箱男”の存在について理解して頂けたと思う。
「箱男」の世界観についても。

この「箱男」という作品は、安部公房の“冒険”が見られる。その一つに、“読者にとっての小説への参加”が挙げられるだろう。
「箱男」は、バラバラに記憶・記録されたものを勝手に、何度でも積み変えてもらうような設計になっているのだ。
私が初めてこの作品を読んだ時、すぐに気付いた。ただでさえ作品に引き込まれるような工夫が多数なされているというのに、安部公房は「小説への引き込み」を「小説への巻き込み」へと昇華させたのだ。
私には、安部公房が恐ろしく思えてならない。間違いなく、天才である。

「小説への巻き込み」を匂わせる要素の一つに、情報の視覚化―写真があることについて触れておかねばなるまい。
「箱男」では、主人公が自ら写真を撮るシーンがある。一度目の写真挿入の後にそのシーンはあるのだが、「《表紙裏に添付された証拠写真についての二、三の補足》」と銘打たれたその説明文を読む限りでは、どうも挿入される写真と条件が合わないのだ。
つまりこの挿入された写真は、主人公本人が撮ったものかどうかが判断できないような演出の下で、『意図的に』使用されていると考えることが出来る。
そしてその写真の下に書かれた、詩のような文章。物語の進行には然程関係はないのだが、何か意味を見出そうとするような雰囲気があるのだ。
こういった詩的で思わせ振りな表現が、写真にも並列して行えるということを意識させる働きは無いとは言えない。

つまり、写真自体が文章から独立した、ある種の情報を提示するメディアとして働いているのである。
主人公本人が撮った写真かどうかは明確でないが、客観的立場にある“写真”が介在することによって、物語の現実味は更に増す。
「誰が撮ったか」の前に、この写真が物語世界の現実を写しているものであると読者は前提的に容認してしまう。
ここにも、より身近で直接的になった日常の視覚メディアの特性が巧みに利用されていることが分かる。

『“見る”ことには愛があるが、“見られる”ことには憎悪がある。』


私はこの作品が大好きだ。物語に引き込まれることは数あれど、巻き込まれたのは後にも先にもこれだけだ。「箱男」は、私という読者を、小説の参加者へと引き上げてくれたのだ。内容もさることながら、その技法に私はただただ舌を巻くことしかできない。
ただの「箱」の広がりを知るには、この作品におまかせあれ。是非とも書店で手に取ってもらいたい。
私の拙文にお付き合い頂き、本当に嬉しく思う。それでは、また機会があれば文章の上でお会いしよう。その時は「箱男」と安部公房について語り合うことができたら、と思うばかりだ。

『じっさい箱というやつは、見掛けはまったく単純なただの直方体にすぎないが、いったん内側から眺めると、百の知恵の輪をつなぎ合わせたような迷路なのだ。もがけば、もがくほど、箱は体から生え出たもう一枚の外皮のように、その迷路に新しい節をつくって、ますます中の仕組みをもつれさせてしまう。』

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Pとこの一冊 第1回 さそ「ザ・サード/星野 亮」

 世界を描く――小説『ザ・サード』シリーズ 作・星野亮

No1 さそ用


 真人間Pから寄稿のお話をいただいた。
 企画「Pとこの一冊」にて、大切にしている一冊(あるいはシリーズ)について語ってみないかというのである。二つ返事でOKしたが、実はやや後悔もした。後悔しながらこれを書いている。
 というのは、果たして今の自分を「P」と見なして良いものかどうかわからなかったからだ。
 もう動画も小説も手がけていないし、このところのアイマスの展開にはあまり良い感情を持っていない。愚痴でブログやツイッターを汚してしまうことも多く、そんなふうでプロデューサーを名乗れるか、と。
 悩ましいところだが、正直なところ私は愛読書について語る場を与えられたことが嬉しい。浮かれていると言ってもいい。なので、この稿を実際に使うかどうかは企画側にお任せするとして、私は私の座右の書について思いの丈を綴らせて頂こうと思う。
 前置きが長くなりました。少々お付き合い下さい。

『ザ・サード』というライトノベルをご存知だろうか。
 最近某所を賑わせている『進撃の巨人』のこともあって、野球の三塁手が主人公のお話と思われるかもしれない。あいにくそうではない。……いやこのネタ、むかし掲載誌であったものだから。
 これは遥かな未来、『大戦』と呼ばれる戦争を経て荒廃しきった地球の物語で、ザ・サードとはその地球に出現したある特別な人類種の呼び名である。彼らは額に邪眼のような『第三の目』を持っている。だからthe third。

 さてこのお話、主人公は『なんでも屋』を営む17歳の女の子である。名前を火乃香(ほのか)というが、こちらもあいにく、今の中で輝きを待っていたスクールアイドルユニットのセンターではない。正直あちらの名前を聞いたとき、このことで少なからず反応した。それは余談。
 火乃香の生きる時代の地球では、先の大戦のために陸地の大半が砂漠化し、砂中には半端なハジキなどものともしない凶悪生物がひしめいている。砂漠を隔てた居住エリア間の移動は徒歩では絶対に不可能で、旅をする際はなんでも屋や傭兵の持つ戦車の力に頼るほかなく、それでも旅人が戻らない例は後を絶たない。
 また、人類は戦後に現れた超人種ザ・サードに支配されており、飛行機をはじめとした一定の科学技術の研究・開発ならびに所持を禁じられている――
 と、こう書くとそれこそ『進撃の巨人』に近い人類クライマックス世界なのだが、作中の空気はとても明るく、開放的で活気に満ちている。
 居住エリアをぶらつけば、露天商がサイボーグの傭兵とロケットランチャーの値段交渉で喧々諤々の口論を繰り広げ、その後ろを子どもたちが笑いながら駆けていく。病院では病院嫌いのアンドロイドが婦長さんに言い負かされ、裏道に入れば技術屋たちが御禁制の超兵器開発に余念がない。各居住エリアの自警団や行政長はザ・サード派出の査察軍に常に睨みを利かせているし、砂漠の旅を終えた火乃香らなんでも屋は、旅の中で見た星空や不思議な生き物たちの話を土産に友人知人の家をおとなう。
 この世界の人々は、とことん力強いのだ。一度は滅亡の危機に瀕し、水の星を砂の海に変えてしまったのに、その砂の海には命の力が満ち溢れている。「それでも生きる」人々がそこにはいる。
 人間だけではない。
 砂漠に生きる巨大なアリやクモ、龍の名前で呼ばれる謎の種や、もっとわけのわからない多種多様な生き物たちも、それぞれに地球に息づいている。火乃香はこの物語の中で幾度となく彼らと触れあい、ときに命のやり取りをするが、その中に一匹として異常・異質のモンスターは存在しない。火乃香自身を含めて皆が自分の歴史を持ち、正当な理由をもって生き、殺し、死んでゆく。それは言うなれば食物連鎖にも似た、残酷にして正常な生命のサイクルである。
 冒頭、私はこの物語を「荒廃しきった地球の物語」と述べたが、それはこのことを意味している。主人公の火乃香を通じて、彼女の生きる地球の鼓動が、砂漠の息遣いが、ぐんぐんと伝わって来るのである。そしてそのエネルギーが、読み手の――私の胸に届いて、確かな力をくれるのだ。
 初めてこの世界と出会ったのは火乃香と変わらない齢のころだったが、与えられた力と衝撃の大きさにしばし途方に暮れたものだった。
 腹の中に地球が誕生したような、自分の中に世界が新しく創造されたような、文字通りビッグバン級のインパクトとでも言えば良いのか。あれほどのものを感じたのは、その少し前の『スレイヤーズ』と、後のアイマスだけである。スレイヤーズ、ザ・サード、アイドルマスター。我が人生を狂わせ、もとい、かたち作りし三柱だ。

 ――と、いまいち華の無い文章をここまで連ねてしまったが、ご理解頂きたい。正直なところ私もあのお話を自分の中で明文化しきれておらず、ざっくり「好きだからオススメ!」くらいにしか言えないのである。
「火乃香はかつてドラゴンマガジンの企画『彼女にしたいヒロインランキング』で千鳥かなめや御剣涼子を押さえて一位に輝いたことが……」などと古い栄光を語ってもしかたないし、またその火乃香の人間性に触れるにあたっても、私と同じ新鮮な驚きをもってぞっこん惚れ込んでもらいたいため、ここで具体的にその魅力について語るのははばかられる。
 私がこんな言い方をするとアレだが、出会いから十三年余を経、菊地真を知った今なお、彼女は私の中のひとつの頂に君臨し続ける『太陽』にして『憧れ』である。

 憧れといえば、私はザ・サードが持つ小説としての魅力にも強い憧れを抱いている。拙作が二次創作のくせにやたら『世界観』を描こうとするのは間違いなくこのお話の影響で、自分の中の765プロ、自分の中のアイドルマスターを表現してはじめて良しとする我が習性は、命息づく地球を描いたザ・サードの物語に惹かれるがゆえのものである――と、今気づいた。
 真担当を僭称しながら、ついに真の物語をさほど描かなかった理由もそこにある。私が描きたかったのは「真がいる風景」であり、真自身の物語ではなかった。物語に表すまでもなく、私の中で菊地真とは既にほぼ確立された存在だったのだ。もっともニコマス活動の後半はモチベーションのありかが全く変わってしまい、そこから真のお話が増えはじめたのは皮肉だったが……。

 ともあれ。
 さそPのルーツ、という触れ込みではいかにもマイナスの印象にしかなるまいが、シリーズ『ザ・サード』、またその初巻『蒼い瞳の刀使い』、頭の隅にでも留め置かれ、もし縁あればご一読の上、かの世界が宿す『力』に触れて頂ければ、これに勝る喜びはない。
 その『力』を象徴する一節を紹介して、本稿の括りに代えようと思う。

「すっげー。生きていく場所だって、生きていく方法だって、いくらでもあるんだ。どんなやつがいたってかまわないんだ。だって、だってさ――
 こんっっっなに広いんだよ? ははっ。なんだ、そういうことじゃん」
 火乃香は嬉しかった。ハムシーン・フィッシュが、彼女たちの過去も現在も未来も、いま置かれた立場も、胸に秘めた情動も、あっけらかんと無視してくれた態度が、どうしようもなく嬉しかった。
 ――ザ・サードⅦ『死すべき神々の荒野(上)』より。


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Author:さそ

765かんさつにっき(公開マイリスト): http://www.nicovideo.jp/mylist/11683496

Twitter @sasoriya

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Pとこの一冊 寄稿について

「Pとこの一冊」
募集期間:4/19(金)~5/18(土)

「Pとこの一冊」とは、プロデューサーの皆様が選ぶ一冊の本を心行くまで語ってもらおう、という至極単純明快な企画です。皆様の寄稿によって、初めて成り立ちます。

そこで、寄稿してくださる方を募集したいと思います。
テーマは、「自分の好きな本」です。小説でも漫画でも、評論やエッセイ等なんでもござれです。好きなように語っていただいて構いません。
(私、真人間Pの独断で直接寄稿を依頼する事もあります。その時は、お時間ありましたら引き受けてくださると嬉しいです。)

もし「寄稿したい!」という方がいらっしゃいましたら、私、真人間Pの方に連絡ください。
(連絡先 Twitter →@HonestManP  Skype → spspapricot )

寄稿にあたっての条件
・寄稿者はニコマスP、またはそれに準ずる方(生主、イラストレーターなどなど。『など』の範囲はかなり広いので、どうぞお気軽に!)に限ります。
・とりあげる作品は年齢制限が無いものに限ります。
・一冊とは言いましたが、シリーズ物について語ってもらっても結構です。

まだまだ慣れないので、続けている内に課題が見つかればその度に増えると思われます。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
プロフィール

真人間P

Author:真人間P
「Pとこの一冊」寄稿者募集中
開催期間 4/19~5/25
詳しくは、「寄稿について」参照。

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